初心者にオススメの最有力候補か!?Taylorの新シリーズ「American Dream」を徹底解剖!

 
 

はじめに

 
振り返ると、2020年のテイラー(Taylor)は新製品発表のラッシュでした。
 
中でも「グランド・シアター」(Grand Theater)と「アメリカン・ドリーム」(American Dream)は、全く新しいコンセプトのシリーズとして登場。
 
どちらも今後の横展開を狙った意欲作ですが、「アメリカン・ドリーム」は、着想から製品化まで、わずか数ヶ月という短期間で生まれたシリーズです。
 
Taylorguitars.com」より引用
 
オール単板に、V-Classブレーシング、面取りされたボディエッジで、しかもアメリカ製というスペック。
 
それでいて低価格というこのシリーズは、本当に“使えるギター”なのか?
 
この記事では、そんなアメリカン・ドリーム、通称ADシリーズについて深く掘り下げていきたいと思います。
 
グランド・シアターに関しては「Taylorの新シリーズ「Grand Theater」はオススメできるギターか?スペックから検証!」で詳しく解説&考察しています。
 
 

ADシリーズの基本スペック

 
今回のADシリーズは、第一弾として2つのモデル、色違いやピックアップの有無を含めて6機種が発表されています。
 
AD17 / AD17e

ボディ・シェイプ  グランド・パシフィック(GP)
トップ材  シトカ・スプルース
サイド&バック材  オヴァンコール
ネック材  トロピカル・マホガニー
フレッドボード材  ユーカリ
ブレーシング  V-Class
 
こちらのAD17eは、トップ材にスプルース、サイド&バック材にオヴァンコールを採用。
 
この組み合わせは3桁シリーズの400番台と同じ構成です。
 
AD17 Blacktop / AD17e Blacktop
ボディ・シェイプ  グランド・パシフィック(GP)
トップ材  シトカ・スプルース
サイド&バック材  オヴァンコール
ネック材  トロピカル・マホガニー
フレッドボード材  ユーカリ
ブレーシング  V-Class
 
こちらはトップ材を黒で塗装したモデル。
 
AD27 / AD27e
ボディ・シェイプ  グランド・パシフィック(GP)
トップ材  サペリ
サイド&バック材  マホガニー
ネック材  トロピカル・マホガニー
フレッドボード材  ユーカリ
ブレーシング  V-Class
 
AD27eはトップ材にサペリ、サイド&バック材にマホガニーという組み合わせ。
 
サペリは300番台のサイド&バックの定番材でお馴染みですが、トップ材として採用されるのは今回が初めて。
 
マホガニーと組み合わさることで、どんなサウンドになるのか気になるところです。
 

考察

 
ここからはADシリーズの共通のスペックから、特徴を考察していきます。
 

ボディ・シェイプ

 
ADシリーズでは、ボディ・シェイプにグランド・パシフィック(GP)が採用されています。
 
ボディ・シェイプ
ギターのボディの形状のこと
 
 
上のボディ・シェイプ一覧の右から2番目がグランド・パシフィックです。
 
グランド・パシフィックは2019年に誕生したTaylor独自のボディ・シェイプで、ラウンドショルダータイプのギター。
 
スペック上のボディ幅やスケールはグランド・オーディトリアム(GA)と全く一緒ですが、モダンなトーンが特徴のGAに比べ、GPはトラディショナルなトーンを響かせます。
 
温かみがあり、長く使い込まれたようなサウンドから、Taylor版のドレッドノートと位置づけられています。
 
そして特筆すべきは、丸く面取りされたボディ・エッジ。
 
Taylor公式HP」より引用
 
通常、アコギ(エレアコ)はトップとサイド、バックのつなぎ目はほぼ直角に接合されています。
 
グランド・パシフィックは抱えやすさを重視し、全体が丸みを帯びているので長時間抱えた際のストレスが軽減されます。
 
実は、この面取りはTaylorの上位シリーズであるビルダーズ・エディション(Builder’s Edition)で採用されているもの。
 
今回、ビルダーズエディション以外で初めて、ADシリーズに採用されたのは正直、驚きました。
 
 

V-Classブレーシング

 
今回のシリーズでもうひとつ驚いたのが、V-Classブレーシングの採用。
 
Taylor公式HP」より引用
 
ブレーシングとは、ボディの強度を上げるために、ギターの内側に張られた棒状の材のこと。
 
V-ClassブレーシングはTaylorのオリジナル設計で、上の画像のようにメインの骨組みが左右対称にV(ヴイ)状に張られています。
 
こうすることで、音の分離やサスティーンが強化されました。
 
サスティーン
音を鳴らして消えるまでの長さ。音の持続性を表す言葉。
 
 
Taylorでは2018年から、定番の300番台以降のシリーズにはV-Classブレーシングが採用されています。
 
一方、それ以外のシリーズは従来のX(エックス)ブレーシングです。
 
詳しくは「Taylorのベストセラー!100・200シリーズを徹底解剖」で解説しています。
 
 
そして今回のADシリーズは、これまで定番シリーズでしか採用していなかったV-Classブレーシングが採用されています。
 
つまり、このシリーズはTaylorが”本気”で普及させようとしていると考察できます。
 

オール単板

 
Taylorの本気度が分かる、もうひとつのスペックがオール単板であるということ。
 
Taylorに限らず、アコギ(エレアコ)を選ぶ際に、よく「単板」や「合板」と言った言葉を聞くことが多いと思います。
 
その違いは、
単板・・・木材をそのまま切り出した板
合板・・・ベニア板のように薄くスライスした木材同士を重ね、圧着させた板
 
 
 
 
 
「wood&steel」より抜粋
 
 
 
 
 
上の図の、左が単板、右が合板です。
 
この2つの決定的な違いは、サウンドにあります。
 
単板は、単一の材なのでボディが振動しやすく、箱鳴りも抜群です。
 
Taylorでは定番の300以降のシリーズで採用されていますが、ADシリーズにも採用したということは、「サウンド面で妥協をしたくない」というTaylorの強い意思の現れだと考察できます。
 

アメリカ製

 
ADシリーズの製造は本国・アメリカのカリフォルニア州にある、Taylorのエル・カホン工場で行われています。
 
Taylorのギターはアメリカとメキシコの2拠点で製造されており、300番台以降の上位シリーズはアメリカ製、200番台以下のシリーズはメキシコ製と棲み分けされています。
(V-Classブレーシングはアメリカ製、Xブレーシングはメキシコ製という見分け方もあります)
 
ADシリーズはV-Classなのでアメリカ製ですが、既存のアメリカ製ギターと比べて圧倒的に安いのが特徴です。
 
これについては後述する「価格について」で解説しています。
 

定番シリーズとの違い

 
サウンド面で妥協しないために、上位シリーズ並みのスペックを盛り込んだADシリーズですが、低価格を実現するためにコストカットされた部分もあります。
 

バインディングなし

 
バインディングとは、ボディの角に沿って接着された“縁”のこと。
 
これはほとんどのギターに付いているものですが、今回のADシリーズにはありません。
 
その代わりにボディエッジを面取りしているので、見た目はスッキリしています。
 

フレットボードにユーカリを採用

 
これまで、Taylorの全ラインアップのフレットボードにはエボニー(Ebony)という材が採用されてきました。
 
エボニーは数あるトーンウッドの中でも特に堅い木として、様々なメーカーがフレットボードに採用しています。
 
しかし、近年その数が減少し価格が高騰しています。
 
フレットボード
弦を押さえる場所に貼り付けている材。指板。
 
トーンウッド
楽器に使用される木材の総称。
 
今回のADシリーズでは、エボニーの代替材として、ユーカリが採用されました。
 
Taylorguitars.com」より引用
 
ユーカリはオーストラリア周辺の国々に自生し、その葉はコアラの食物として知られ、聞いたことがある人も多いと思います。
 
問題の強度はエボニーやインディアン・ローズウッドと同等と言われ、相当数の在庫を確保できることから採用されたものと思われます。
 
サウンドや引き心地に、どう影響するかは実際に試奏してみないと判断は難しいですね。
 

ピックガードはプラスチック製

 
ここもコストを抑えるためにプラスチック製です。
 
300以降の上位シリーズは木製なので、高級感という面では見劣りしますが、一般的なアコギ(エレアコ)はほとんどプラスチック製のピックガードなので安物という印象はありません。
 

価格について

 
2月24日追記
先日から国内の店頭での販売がスタートしました。
現時点で判明している各モデルの店頭実売価格は以下の通りです。
AD17e・・・24万2000円
AD17e Blacktop・・・26万8400円
AD27e・・・24万2000円
ピックアップなしのモデルはまだ店頭には出ていないようですので、分かり次第追加します。
-考察-
上記3モデルに関して、記事作成時の予想よりも少し高額になりました。
定番の300シリーズの店頭実売価と比べると安いですが、コスパはあまり良くない印象です。
 
下記は記事作成時(1月18日)の予想ですので、ご注意ください。
 
AD17eとAD27eのメーカー希望小売価格は、どちらも302,500円(税込み)です。
 
店頭実売価格は21〜23万円と予想されます。
 
ピックアップなしのモデルだと3万円ほど安くなるので、税込みで10万円台になる可能性は高いと思います。
 
一方、AD17e Blacktopはメーカー希望小売価格が335,500円(税込み)。
 
これは店頭売価24〜26万円といったところでしょうか。
 
ちなみに、単板シリーズで最安値の300シリーズは新品で店頭売価28〜30万円です。
 
それを考えると、ADシリーズはアメリカ製のTaylorとして圧倒的にコスパ良しです!
 

まとめ

 
今回、Taylorがこのシリーズに「アメリカン・ドリーム」という名を冠したことに、感慨深いものがあります。
 
というのも、そもそもTaylorの創業のきっかけは、創業者のボブ・テイラーが20代の頃に働いていたギター工房を買い取ったところから始まっているのですが、その工房の名前がまさに「アメリカン・ドリーム」なのです。
 
ボブには、ブランド立ち上げ当時の経営の危機的状況と、昨今のコロナ禍における経済危機が重なって見えたのでしょうか。
 
兎にも角にも、オール単板のアメリカ製、サウンドに妥協しない反面、省けるとこはギリギリまで省き、低価格を実現できたことは企業努力の賜物だと感じました。
 
これまでTaylorギターを初心者におすすめする時は100・200シリーズやAcademyシリーズなどのレイヤード・ウッドのものばかりでした。
 
そのことを考えると、今回のシリーズが初心者におすすめする最有力候補になる可能性は極めて高いと思います。
 

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