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はじめに
2020年に発表されたTaylor(テイラー)の新シリーズ「グランド・シアター」(Grand Theater)、通称GTシリーズ。
2013年から7年がかりで開発されたという肝いりの新製品です。

新たに設計されたボディ・シェイプは既存のグランド・オーケストラ(Grand Orchestra)をサイズ・ダウンさせたものですが、スペックを見る限り、ただ小さくしただけものではないようです。
2021年1月現在、実機が日本の店頭に入ってきていないので試奏できていませんが、公式に発表されているスペックを元に、このギターの特徴と、どんな人をターゲットにしているか考察してみたいと思います。
GTシリーズの基本スペック
GT / GTe Urban Ash |
ボディ・シェイプ | グランド・シアター(GT) |
トップ材 | シトカ・スプルース |
サイド&バック材 | アーバン・アッシュ |
ネック材 | トロピカル・マホガニー |
フレッドボード材 | ユーカリ |
ブレーシング | C-Class |
ボディ・シェイプは、これまでの定番シリーズとは異なるサイズ。
トップ材にシトカ・スプルース単板、サイド&バック材にアーバン・アッシュという組み合わせもこれまでにないもの。
さらにブレーシングも、「C-Class」という、このシリーズのために新たに開発されています。
スペックを見ただけでも、Taylorのこのシリーズにかける意気込みを感じることができます。
考察
それでは、ここからは上記のスペックから読み取れるGTシリーズの特徴を考察していきます。
新ボディ・シェイプ「グランド・シアター」
GTシリーズは、テイラーでは6本目となるオリジナルのボディ・シェイプです。
サイズはフルボディではなく、ミニでもない、ミディアムという位置づけです。

「Taylor公式HP」より引用
ボディ・スケールは、上記写真の左から順に、
GC・・・・・495.3mm
GT・・・・・469.9mm
GS Mini・・・448.0mm
GT・・・・・469.9mm
GS Mini・・・448.0mm
となっています。
既存の定番シリーズで最小サイズのGC(グランド・コンサート)と比べると、パッと見は変わらないですが、25.4mmほど短くなっています。
反対に、ミニギターのベストセラー、GS Miniと比較すると、22.2mmほど長いです。
この絶妙なサイジングは「ミニギターは欲しいけど、小さすぎて弾きにくい」という不満を解消してくれるのではと期待しています。
Taylorのボディ・シェイプについて知りたい人は「あなたにピッタリのTaylorは?-ボディ・シェイプ編-」で詳しく解説しています。
新ブレーシング「C-Class」
GTシリーズでは新たに「C-Class」というブレーシングが採用されています。
これは、ボディをサイズ・ダウンしながらも、プロが使用する上で必要最低限のボリュームを出すために独自に開発されたもの。
ブレーシング
ボディの強度を上げるために、ギターの内部に張られた棒状の材。力木(ちからぎ)とも呼ばれる。
上記写真は、2020年12月にオンラインで開催された、楽器フェアで公開されたC-Classの画像です。
メインの骨組みが左右非対称に組まれているのが分かります。

「Taylor公式HP」より引用
こちらは、Taylorの定番シリーズに採用されている「V-Class」ブレーシング。
ボディのセンターからメインの骨組みが2本、左右対称に広がっています。
「C-Clsass」という名称の”C”はカンチレバー(Cantilever)の頭文字から取ったもので、いわゆる”片持ち梁”のような構造になっています。
これは「V-Class」を基に新設計されたもので、この構造によってフル・ボディと同等のボリュームが得られるとのことです。
さらに、それまでのミニギターでは実現できなかった低音とサスティーンの伸びも強化されていると言います。
新ネック・スケール
GTシリーズでは、ネック・スケールも新たなサイズが導入されています。
新スケールは、612.8mm。
これもGCの631.8mmより短く、GS Miniの596.9mmより長い、ミディアム・スケール。
弦のテンションは限りなくエレキギターに近いと言います。
具体的には、フルスケールのギターを半音下げて、1フレットにカポをはめた時のテンションと同じ。
さらに、ナット幅も43.6mmという、快適な演奏性を得るために新設計されています。
新フレットボード「ユーカリ」
これまで、テイラーの全ラインアップのフレットボードにはエボニー(Ebony)が採用されてきました。
エボニーは数あるトーンウッドの中でも特に堅い木として、様々なメーカーがフレットボードに採用しています。
トーンウッド
楽器に使用される木材の総称
今回、GTシリーズでは新たに、ユーカリが採用されました。

「Taylorguitars.com」より引用
ユーカリはオーストラリア周辺の国々に自生し、その葉はコアラの食物として知られ、聞いたことがある人も多いと思います。
ただ、トーンウッドとして使用した例を僕は今まで聞いたことがありませんでした。
調べてみても、これと言った情報がありません。
何故、Taylorはユーカリに目を付けたのか、機会があれば是非聞いてみたいところです。
で、このユーカリについて気になるのは、トーンウッドとしての強度や弾き心地はどうなのか?という点。
これも調べてみると、創業者であるボブ・テイラーの言葉が見つかりました。
There are many species of eucalyptus, each with different properties. The one we’re using for fingerboards is fairly easy to darken its color through and through. I’d say it’s quite close to an Indian rosewood fingerboard in color, hardness and tone. This same wood can be used for sides and backs as well, and is in plentiful supply as it’s been planted all over the world for a hundred years.
「Wood&Steel」より一部抜粋
ポンの意訳
ユーカリには多くの種類があって、それぞれ異なる特性を持っています。我々が指板に使用している材は、いとも簡単に色を暗くすることができます。この材は、色や硬さ、色調と言った点でインディアン・ローズウッド製の指板に限りなく近いと感じています。そしてサイド&バック材としても使え、100年もの間、世界中で植樹されているため、供給量も豊富にあります。
インディアン・ローズウッドはフレットボードによく使われる材として知られていますが、何故、エボニーではなくインディアン・ローズとの比較なのかはよく分かりません。
しかし、ユーカリがトーンウッドとして強度的には問題なさそうなのは分かりました。
弾き心地に関しては、実際に試奏してみないと評価はできませんので、言及しないでおきます。
その他
このGTシリーズは、テイラーギターの定番ラインアップとして「XX1」の型番が与えられています。
最初に発表されたモデルは、サイド&バックに自然保護活動の中で新たに導入したアーバンアッシュが採用されましたが、第二弾としてオールコアの「GT K26e」と、サイド&バック材にインディアン・ローズウッドを仕様した「GT 811e」が発表されています。
日本での販売は、まだまだ先になりそうですが、どんなサウンドになるのか楽しみです。

価格について
本国でピックアップ付きのGTeは、メーカー希望小売価格で1,599ドル。
日本円で約16万円です。
日本の公式HP上のメーカー希望小売価格は30万2,500円(税込み)。
単純計算で、店頭実売は23〜25万円程度になるかと思われます。
ピックアップなしだと21〜23万円ではないでしょうか。
本国と比べると、どちらのモデルも割高感は否めません。
価格設定に関しては全ラインアップが同じ様な値付けなので、当然と言えば当然なのですが、コスパがいいかと言われると正直微妙なところです。
まとめ
現状、テイラーで人気のミニギターは全てレイヤード・ウッドです。
テイラーでは、過去に単板のGS Miniを試作したこともあったと言いますが、イメージ通りの音にならなかったそうです。
そのため、根本から開発を見直したのが、このGTシリーズ。
記事の冒頭で”肝いりの新製品”と表現しましたが、その意味が分かってもらえたなら幸いです。
で、個人的にこのモデルは「買いか?」と言われると、結論としては「買い」です。
ただし、条件があって「2本目のギターとしては買い」ということです。
初心者の”はじめの1本”としては未知数な部分が多すぎる印象です。
なので、既にTaylorギターのユーザーや、フルスケールのアコギを持っている人の家ギターとしての需要が大きくなるのではと予想されます。
兎にも角にも、実機を触ってみないことにはハッキリとして結論は出せませんが、試奏できたらすぐに報告しますので、続報をお待ち下さい。