テイラー(Taylor)ギターの定番3桁シリーズ(300〜900番台)のサイド&バックに使用されているトーンウッドは大きく4種類に分かれています。
300/500 series | マホガニー系 |
600 series | メイプル系 |
700 series | コア系 |
400/800/900 series | ローズウッド系 |
今回取り上げるのは、マホガニー系の500シリーズです。
「taylorguitars.com」より引用
500シリーズのサイド&バックはマホガニー(Mahogany)という材で、アコースティックギターではインディアン・ローズウッドと並んで定番のトーンウッドです。
そのため500シリーズは2本目、3本目に購入する人が多いシリーズでもあります。
その特徴は・・・
- 突出した中音域による暖かみのあるサウンド
- 伸びのあるサスティーン
- 2種類のトップ材でサウンドニュアンスが変化
500シリーズは、トップ材もマホガニーの524ceや、レッドシダーを使用した514ceなどバリエーションが豊富なことも特徴のひとつです。
この記事では、500シリーズの特徴やスペックから、人気の秘密を紐解いていきます。
マホガニーとは
先述したように、500シリーズのサイド&バックにはマホガニー(Mahogany)という材が使われています。
マホガニーそのものは、センダン科のマホガニー属に属する木材の総称で、産地によって様々な種類があります。
テイラーが使用するマホガニーは中南米を原産とする種で、トロピカル・マホガニーと呼ばれています。
この名前自体は公的な種名ではなく、テイラーによって命名されたものです。
トロピカル=熱帯
ということで、熱帯地区(中南米)で育ったマホガニーというストレートな命名。
そもそも、この地帯のマホガニーはブランド名がついていなかったのでマーケティングの一環として名付けられたのだと推測できます。
500シリーズの特徴
500シリーズの歴史は古く、テイラーが創業した4年後の1978年から製造されています。
テイラーのシリーズ別のランクでは「定番」に位置し、後述するモデルのラインナップも一番多いシリーズとなっています。
共通するスペックは以下の通り。
500シリーズの共通スペック | |
トップ材 | マホガニー or シダー |
サイド&バック材 | トロピカル・マホガニー |
ネック材 | トロピカル・マホガニー |
フレットボード材 | エボニー |
ピックアップ | ES2 |
トップ材・サイド&バック材は共に単板となっています。
突出した中音域による暖かみのあるサウンド
500シリーズのサイド&バックに使用されているマホガニーは、中音域に膨らみのある暖かいサウンドが特徴。
言い方を変えれば「重い」とも言われますが、高音域も艶があり“大人な”サウンドと言えます。
オーバートーンが少なく、フラットピックでのストロークを多用するプレイにおすすめです。
そのためジャズやブルースをたしなむ人にも選ばれる傾向があります。
伸びのあるサスティーン
サスティーンとは、音を鳴らして(弦を弾いて)から、聴こえなくなるまでの長さのこと。
テイラーのギターは、このサスティーンが長いことで知られています。
それを実現しているのがV-Classブレーシングです。
「Taylor公式HP」より引用
ブレーシングとは「力木」(ちからぎ)と呼ばれる、ボディの強度を上げるためにギターの内側に張られた棒状の材のこと。
V-Classブレーシングは上の画像の通り、メインの骨組みがV(ヴイ)状に張られています。
これは2018年にテイラーが独自に開発したブレーシング構造です。
従来、アコギのブレーシングは下の画像のようにメインの骨組みがX(エックス)状に張られている、Xブレーシングが一般的でした。
「NEW ATLAS」より引用
これは、マーチン(Martin)社が100年以上前に考案したものがベースとなっており、ほとんどのギターメーカーが採用しています。
Xブレーシングはギターの強度を高める役目を果たしていますが、材の振動を抑制してしまうという課題がありました。
そのため犠牲になっていたのが、先述したサスティーンです。
V-ClassブレーシングはギターのトップにXブレーシングとは異なる振動をさせ、硬さと同時に柔軟性を向上させることで伸びのあるサスティーンを実現しました。
2018年以降、300番台以降のシリーズには全て、このV-Classブレーシングが採用されています。
さらに、V-Classブレーシングになったことで、コンパクトなボディでも音量を稼ぐことができることも特筆すべき点です。
2種類のトップ材でサウンドニュアンスが変化
500シリーズには、トップ材がマホガニーのモデルと、シダーのモデルの2種類があります。
マホガニーは硬く、シダーは柔らかいため、サウンドのニュアンスが異なります。
マホガニー
「Taylor公式HP」より引用
マホガニーの特徴ついては、ここまで説明した通りです。
トップ材にもマホガニーを使用したギターは「オールマホ」と呼ばれ、往年のブルースマンたちがこよなく愛していますね。
テイラーはジャズやブルースといったジャンルとあまり結びつかない印象ですが、実はオールマホのモデルが登場したのは2013年。
他メーカーと比べて、まだまだ歴史が浅いですが、鳴りは負けず劣らずジャキジャキしています。
フラットピックを多用するプレイならオールマホがおすすめです。
シダー
「Taylor公式HP」より引用
シダーとは、いわゆる「杉」のこと。
テイラーのシダーは北西アメリカが産地の、赤みがかったウェスタン・レッド・シダーが使用されています。
クラシックギターなどでは一般的な材で、テイラーでは500シリーズのみに採用されています。
シダーは、アコギのトップ材として一般的なスプルースと比べて、温かみのあるソフトなサウンドが特徴。
サイド&バックのマホガニーと組み合わせることで音に丸みが出ることからフィンガースタイルとの相性がいい材です。
500シリーズのラインナップ
2021年12月現在、500シリーズには下記のモデルがラインナップされています。
上で解説したトップ材の違いはモデル番号の2桁目で見分けることができます。
モデル番号の2桁目が「1」の場合はシダー、「2」の場合はマホガニーです。
- 512ce
- 512ce 12Fret
- 522ce
- 522e 12Fret
- 522ce 12Fret
- 562ce
- 514ce
- 524ce
- Builder’s Edition 517
- Builder’s Edition 517 WHB
- Builder’s Edition 517e
- Builder’s Edition 517e WHB
トップ材以外での主な違いはボディ・シェイプ、いわゆるボディの形状です。
テイラーには6つのボディ・シェイプがあり、500シリーズでラインナップされているのは「GC」「GA」「GP」の3シェイプ。
以下で各シェイプの特徴を簡単に紹介します。
グランド・コンサート(GC)
対象モデル:512ce / 512ce 12Fret / 522ce / 522e 12Fret / 522ce 12Fret / 562ce
グランド・コンサート(Grand Concert)、通称GCはマーチンの00(ダブルオー)に近いサイズ感で、女性や小柄な男性に人気の形状です。
500シリーズのラインナップでは一番小さく、ボディの厚みも浅めなので、より身体に引き寄せて弾くことができます。
12フレットジョイントについて
モデル名に「12Fret」と付いているモデルは、12フレットジョイントのモデルです。
- 512ce 12Fret
- 522e 12Fret
- 522ce 12Fret
通常のアコギはネックとボディの境目が14フレット目にありますが、12フレットジョイントは名前の通り、12フレット目にあります。
その分、ネックがショートしているので、体格の小さな人には弾きやすいモデルとなっています。
尚、モデル名に「c」の付いていない522e 12Fret V-Classは、12フレットジョイントで、且つ、ノンカッタウェイです。
ノンカッタウェイはトップ材がマホガニーのモデルのみとなっています。
12弦モデルについて
562ceは12弦ギターです。
テイラーの12弦ギターの特徴はブリッジにあります。
「Taylor公式HP」より引用
一般的な12弦ギターはブリッジピンの数が弦の本数分(12個)あるのに対し、テイラーは半数の6個しかありません。
1つのピンで2本の弦を固定させるダブルマウントを採用し、すっきりとした印象になっています。
グランド・オーディトリアム(GA)
対象モデル:514ce / 524ce
グランド・オーディトリアム(Grand Auditorium)、通称GAはテイラーで一番人気のシェイプ。
1994年に発表されたテイラー初のオリジナル・シェイプでもあります。
特徴は、大き過ぎず小さ過ぎずフラットピックでのストロークから、フィンガーピッキングまで幅広いプレイスタイルに対応した万能型。
テイラーを初めて買う人は、とりあえずこのシェイプを買っておけば間違いないです。
グランド・パシフィック(GP)
対象モデル:BE 517 / BE 517 WHB / BE 517e / BE 517e WHB
グランド・パシフィック(Grand Pacific)、通称GPはアコギの定番シェイプであるドレッドノートのテイラー板とも言える形状。
元々、テイラーは1974年の創業時から他メーカーと同じくマーチンのドレッドノートのコピーモデルを製造してきましたが、2019年にこのGPが新たなドレッドノートとして定番化。
倍音が効いていて、低音域と高音域が前面に出てくるボリュームのあるサウンドになっています。
Builder’s Editionについて
ビルダーズ・エディション(Builder’s Edition)は、定番シリーズの基本的なスペックに、弾き心地の良さを追求した機能を盛り込んだ“特別仕様”のモデルです。
500シリーズではGPがビルダーズ・エディションとなっています。
詳しくは関連記事で解説していますので、是非、読んでみてください。
これぞTaylorの真骨頂!?Builder’s Editionについて分かりやすく解説してみた
価格について
500シリーズは定番3桁シリーズでは中間に位置し、メーカー小売希望価格は50万円を超えます。
実売価は2割引で40万円台で入手可能です。
メーカー希望小売価格 | 実売参考価格 | |
512ce | ¥569,800 | ¥455,840 |
512ce 12Fret | ¥569,800 | ¥455,840 |
522ce | ¥610,500 | ¥488,400 |
522e 12Fret | ¥610,500 | ¥488,400 |
522ce 12Fret | ¥610,500 | ¥488,400 |
562ce | ¥610,500 | ¥488,400 |
514ce | ¥569,800 | ¥455,840 |
524ce | ¥610,500 | ¥488,400 |
BE 517 | ¥569,800 | ¥455,840 |
BE 517 WHB | ¥588,500 | ¥470,800 |
BE 517e | ¥610,500 | ¥488,400 |
BE 517e WHB | ¥632,500 | ¥506,000 |
テイラーは販売価格が安定しており、全国的に一律の価格設定となっていますが、小さな打痕や引っかき傷のある在庫だと新品特価で売り出される時があります。
また、中古の販売相場は、個体の状態によりますが20〜30万円です。
中古の場合は、ブレーシングがV-Classか確認してから購入してください。
まとめ
以上のことから500シリーズの特徴をまとめると・・・
- 突出した中音域による暖かみのあるサウンド
- 伸びのあるサスティーン
- 2種類のトップ材でサウンドニュアンスが変化
トップ材にシダーを使ったり、トップとサイド&バックを同じ材で揃えたり・・・500シリーズは他のシリーズと比べて独特の造りとなっています。
サウンドも他のシリーズと比べて“大人な”雰囲気なので、今所有しているギターと違うニュアンスのものが欲しい人には是非おすすめです。