テイラー(Taylor)ギターの定番3桁シリーズ(300〜900番台)のサイド&バック材として使用されているトーン・ウッドは大きく3種類に分かれています。
300/500 series | マホガニー系 |
600 series | メイプル系 |
400/700/800/900 series | ローズウッド系 |
今回取り上げるのは、ローズウッド系の400/700/800/900シリーズの中で唯一、トップ材が異なる700シリーズです。
image:Taylor
700シリーズは、トップ材にルッツ・スプルース(Lutz Spruce)を採用し、独自の立ち位置を確立しているシリーズ。
その特徴は・・・
- ストロークにも指弾きにも対応するサウンド
- 伸びのあるサスティーン
700シリーズにルッツ・スプルースが採用されたのは2017年から。
この記事では、これらの特徴から700シリーズの魅力を紐解きながら、何故、トップ材がルッツ・スプルースに変更されたのかを考察していきます。
ルッツ・スプルースとは
冒頭で言及した通り、テイラーの700シリーズはボディのトップにルッツ・スプルースという材が採用されています。
「taylorguitars.com」より引用
ルッツ・スプルースは、シトカ・スプルースとイングルマン・スプルースの自然交配種。
アコギの定番トップ材として知られるシトカ・スプルースの弾力性に加え、フィンガーピッキング向けと言われるイングルマン・スプルースの柔らかいサウンドが融合した材です。
一見、相反する材の組み合わせですが、ルッツ・スプルースはこれらの特徴がうまく両立されています。
700シリーズの特徴
700シリーズはルッツ・スプルースという他のシリーズにはない特徴の他、テイラー独自の技術で、それまでのアコギとは差別化された魅力を持ちます。
テイラーのシリーズ別のランクでは定番シリーズに位置し、比較的、いろんな楽器店で見かけることができます。
ストロークにも指弾きにも対応するサウンド
700シリーズはテイラーが創業した3年後の1977年から製造されていますが、トップにルッツ・スプルースが採用されたのは2017年から。
先述した通り、ルッツ・スプルースはシトカ・スプルースと比べて、パワフルかつ柔らかいサウンドが特徴です。
つまり、フラットピックによるストロークにも指で爪弾くフィンガースタイルにも対応しているということ。
これは、同じくローズウッド系の800シリーズとの差別化を図ったと考察することができます。
800シリーズはテイラーのフラグシップとしての地位を確立していますが、2017年以前はスペック面で800も700も違いがありませんでした。
800シリーズの基本スペック | |
トップ材 | シトカ・スプルース |
サイド&バック材 | インディアン・ローズウッド |
公表はされていませんが、サイド&バック材のグレードも800シリーズと同じものが使われています。
スペックとサウンドの両面で違いを出すために700シリーズをルッツ・スプルース、800シリーズをシトカ・スプルースにし棲み分けを図ったと推測されます。
そして、もうひとつの理由が環境問題です。
これについてはテイラーのマスタビルダー、アンディ・パワーズによるインタビュー記事があります。
ルッツ・スプルースはハイブリッド種だからどこでも生えるので今後の供給も未来があるんだ。そしてギター・ビルダーとして意思を出しやすい材だね。こういう音にしたいと思った時に加工がしやすい。
「アコースティック・ギター・マガジンvol.71」(2017年1月27日発売)の記事より一部抜粋
これに関して個人的には環境問題というよりも供給量を確保し、700/800シリーズ共に価格の高騰を防ぐ狙いがあると考えられます。
いずれにせよ、700シリーズはルッツ・スプルースに変更されたことで独自のサウンドを確立したという事実に違いはないですね。
伸びのあるサスティーン
2017年のルッツ・スプルースへの変更と同時にリニューアルされたのが、ブレーシングです。
ブレーシングとは「力木」(ちからぎ)と呼ばれる、ギターの内側(トップとバック)に張られた棒状の材のこと。
「NEW ATLAS」より引用
このブレーシングには2つの役割があります。
1つ目は「ボディの強度を高める」こと。
2つ目は「弦の振動を正しくボディに伝える」こと。
この2つの役割を両立させるため、テイラーは過去2回、ブレーシングのリニューアル(改良)を行っています。
2017年
最初の改良が、先述した2017年。
それまでのブレーシングは、どのシリーズでも同じ物が使われてきました。
つまりサイド&バック材がローズウッドでもメイプルでもマホガニーでも、中の構造は同じ。
これなら製造コストも安く抑えることができます。
しかし、それにより材の特性を生かしきれないという潜在的な問題を抱えていました。
そこで、材の鳴りを生かすべくシリーズごとにブレーシングの太さや長さを調整。
これによりサウンドの違いがはっきり分かるようになりました。
2018年
そして2回目の改良が2018年。
それまでのブレーシング形状とは全く異なる「V-Classブレーシング」に変更されました。
V-Classブレーシングは300シリーズ以降の上位モデルに採用されたテイラーのオリジナル・ブレーシングです。
「Taylor公式HP」より引用
上の画像で分かる通り、メインの骨組みがV(ヴイ)状に張られているのが特徴。
従来のブレーシングは、X(エックス)型と言って、下の画像の左のようにメインの骨組みが大きくX状に張られています。
これは、マーチン(Martin)が100年以上前に考案したものがベースとなっており、ほとんどのギターメーカーが採用しています。
このXブレーシングは「ボディの強度を高める」という役割はクリアしていますが、「振動を正しくボディに伝える」という面では課題がありました。
V-ClassはギターのトップにXブレーシングとは異なる振動をさせ、硬さと同時に柔軟性も持ち合わせることで、振動を正しくボディに伝えサスティーンを劇的に改善することに成功。
より伸びのあるサウンドを実現させました。
700シリーズのランナップ
2021年10月現在、700シリーズには以下の5モデルがラインナップされています。
- 712ce
- 712e 12Fret
- 712ce 12Fret
- 714ce
- Builder’s Edition 717e
基本的な違いはボディ・シェイプですが、細かい部分に違いがあります。
712ce |
712ceは、グランド・コンサート(Grand Concert)、通称GCというボディ・シェイプ。
マーチン(martin)の00(ダブルオー)に近いサイズ感で、女性や小柄な男性に人気の形状です。
700シリーズのラインナップでは一番小さく、ボディの厚みも浅めなので、より身体に引き寄せて弾くことができます。
演奏スタイルでは、特にフィンガー・ピッキングする人に選ばれる傾向があります。
712e 12Fret / 712ce 12Fret |
こちらは712ceの12フレットジョイントのモデルです。
通常のアコギは、ネックとボディの境目が14フレット目にあります。
このモデルは画像を見てもらうと分かる通り、12フレット目にあります。
その分、ネックがショートしているので、体格の小さな人には弾きやすいモデルとなっています。
尚、12フレットモデルにはカッタウェイの有無で2モデルがラインナップされています。
714ce |
714ceは、テイラーで一番人気のグランド・オーディトリアム(Grand Auditorium)、通称GAというボディ・シェイプです。
特徴は、大き過ぎず小さ過ぎずフラットピックでのストロークから、フィンガーピッキングまで幅広いプレイスタイルに対応した万能型。
テイラーを初めて買う人は、とりあえずこのシェイプを買っておけば間違いないです。
尚、714ceはトップのカラーが「ナチュラル」と「ウエスタン・サンバースト(WSB)」の2色展開となっています。
Builder’s Editionについて
ビルダーズ・エディション(Builder’s Edition)は、上記で紹介した定番シリーズの基本的なスペックに、弾き心地の良さを追求した機能を盛り込んだ“特別仕様”のモデルです。
Builder’s Edition 717e |
BE717eは2019年に登場したグランド・パシフィック(Grand Pacific)、通称GPというボディ形状です。
GPはアコギの定番シェイプであるドレッドノートのテイラー版とも言える形状。
元々、テイラーは1974年の創業時から他メーカーと同じくマーチンのドレッドノートのコピーモデルを製造してきましたが、2019年にこのGPが新たなドレッドノートとして定番化。
倍音が効いていて、低音域と高音域が前面に出てくるボリュームのあるサウンドになっています。
尚、BE717eはノン・ピックアップのBE717の他、ウエスタン・ハニーブラウン(WHB)の2色展開、計4モデルがあります。
価格について
700シリーズは、テイラーの定番3桁シリーズでも上位に位置づけられています。
しかし、インディアン・ローズウッドを採用した4つのシリーズの中では400シリーズ同様、実売で50万円前後のものが多いため、比較的手に取りやすいシリーズと言えます。
でも、まぁ高いですけど。
※すべて税込み
メーカー希望小売価格 | 実売参考価格 | |
712ce | ¥610,500 | ¥488,400 |
712e 12Fret | ¥610,500 | ¥488,400 |
712ce 12Fret | ¥610,500 | ¥488,400 |
714ce | ¥610,500 | ¥488,400 |
714ce WSB | ¥643,500 | ¥514,800 |
BE 717 | ¥610,500 | ¥488,400 |
BE 717e | ¥643,500 | ¥514,800 |
BE 717 WHB | ¥632,500 | ¥506,000 |
BE 717e WHB | ¥671,000 | ¥536,800 |
また、中古の販売相場は、個体の状態によりますが25〜35万円台です。
程度の良いものと出合えれば、間違いなく買いです。
まとめ
ここまでを振り返り、テイラーの700シリーズの特徴をおさらいすると・・・
- ストロークにも指弾きにも対応するサウンド
- 伸びのあるサスティーン
インディアン・ローズウッドにルッツ・スプルースというスペックは、900シリーズのリミテッドモデルで見かけることはありますが、定番で手に入るのは700シリーズだけです。
材だけでなく、バインディングなどの装飾にも上位シリーズならではこだわりが詰まっているので、800シリーズを検討している人にも是非、700シリーズを候補に入れてみて欲しいと思います。