テイラー(Taylor)ギターの定番3桁シリーズ(300〜900番台)のサイド&バックに使用されているトーンウッドは大きく4種類に分かれています。
300/500 series | マホガニー系 |
600 series | メイプル系 |
700 series | コア系 |
400/800/900 series | ローズウッド系 |
今回取り上げるのは、アコースティックギターの定番材として人気のローズウッド系の800シリーズです。
「taylorguitars.com」より引用
800シリーズはテイラーのフラッグシップモデルとして創業時から高い人気を誇るシリーズ。
一方で実勢売価は70万円を超えるので、初心者というよりは「一生モノ」を探す経験者が購入を考えることが多いです。
ただ、800シリーズはテイラーのギターに対する考えが表れたモデルでもあるので、初心者の人でも一度は試奏してみることをおすすめします。
800シリーズの特徴
800シリーズはシリーズ別のランクで「定番」に位置しますが、冒頭で触れた通り、その中でもフラッグシップという立ち位置です。
共通スペックは以下の通り。
800シリーズの共通スペック | |
トップ材 | シトカ・スプルース |
サイド&バック材 | インディアン・ローズウッド |
ネック材 | トロピカル・マホガニー |
フレットボード材 | スモーキー・エボニー |
ブレーシング | V-Class |
ピックアップ | ES2 |
上記スペックから読み取れる800シリーズの特徴が下記の通りです。
Aグレードのローズウッドによる豊かなサウンド
インディアン・ローズウッド(Indian Rosewood)は、その名の通り、インド東部が原産のトーンウッド。
切ったばかりの材はバラの様な香りがすることから名付けられました。
「taylorguitars.com」より引用
アコースティックギターでは王道とも言える材で、他メーカーでもフラッグシップモデルは軒並みインディアン・ローズウッドを採用しています。
そのサウンドは、暖かみや深みを感じられる太い低音域に、きらめく高音域、伸びのあるサスティーンが特徴。
一方、中音域はやや抑え気味なので歌モノに最適と言われています。
他のシリーズとの違い
800シリーズと同様に、インディアン・ローズウッドをサイド&バック材として採用しているシリーズに400/900シリーズがあります。
違いは材のグレードです。
グレードとは一言で言えば“見た目の美しさ”。
400シリーズよりも800シリーズの方が木目がハッキリしています。
インディアン・ローズウッドは和名を「紫檀」(したん)と言い、より紫に見えるものほど材としての価値が上がります。
各シリーズのインディアン・ローズウッドのグレードは以下の通り。
400 Series | : |
グレードなし |
800 Series | : |
A(シングルエー) |
900 Series | : | AA(ダブルエー) |
グレードの格付けには明確な線引があるわけではなく、テイラー社のバイヤーの主観で選ばれます。
800シリーズはフラグシップモデルということもあり、A(シングルエー)というグレードが使われています。
実はこれが価格差を生む最大の要因でもあるのです。
ただし・・・
見た目が美しい = 鳴りがいい
というわけではありません。
あくまで見た目の違いです。
伸びのあるサスティーン
サスティーンとは、音を鳴らして(弦を弾いて)から聴こえなくなるまでの長さのこと。
テイラーのギターは、このサスティーンが長いことで知られています。
それを実現しているのがV-Classブレーシングです。
「Taylor公式HP」より引用
ブレーシングとは「力木」(ちからぎ)と呼ばれる、ボディの強度を上げるためにギターの内側に張られた棒状の材のこと。
V-Classブレーシングは上の画像の通り、メインの骨組みがV(ヴイ)状に張られています。
これは2018年にテイラーが独自に開発したブレーシング構造です。
従来、アコギのブレーシングはメインの骨組みがX(エックス)状に張られている、Xブレーシングが一般的です。
「NEW ATLAS」より引用
これはマーチン社が100年以上前に考案したものがベースとなっており、ほとんどのギターメーカーが採用しています。
Xブレーシングはギターの強度を高める役目を果たしていますが、材の振動を抑制してしまうという課題があります。
そのために犠牲になっていたのが、先述したサスティーンです。
V-ClassブレーシングはギターのトップにXブレーシングとは異なる振動をさせ、硬さと同時に柔軟性を向上させることで伸びのあるサスティーンを実現しました。
2018年以降、300番台以降のシリーズには全て、このV-Classブレーシングが採用されています。
さらにV-Classブレーシングになったことで、コンパクトなボディでも音量を稼ぐことができるようになったことも特筆すべき点です。
極薄フィニッシュで突き抜けた鳴りを実現
800シリーズの特徴は他の下位シリーズよりも「鳴り」がいいこと。
これを実現しているのがボディの塗装です。
「Taylor公式HP」より引用
テイラーの定番3桁シリーズ(300〜900番台)はグロス・フィニッシュとなっており、標準の厚みは6.0mil(ミル)。
6.0mil = 0.1524mm
一般的なA4用紙2枚分の厚さです。
一方、800シリーズの場合は4.5mil。
4.5mil = 0.1143mm
標準よりも薄く塗布されているので、材がより振動しやすくなっています。
これがサウンドの要!?Taylorのボディ・フィニッシュの種類について
抱え心地を重視したアームレスト
800シリーズは、ボディの右腕が当たる箇所が丸く面取りされています。
「Taylor公式HP」より引用
これがアームレストです。
アームレストがあることで長時間の演奏でも右腕が痛くなりにくく、腕を上げる角度も浅くなるので弾きやすいというメリットがあります。
このアームレストは2020年以降に発売された800シリーズに搭載されています。
アームレストは2種類ある
テイラーでは2種類のアームレストを採用しています。
800シリーズで使われているのは「ラディアス・アームレスト」
もうひとつが「ベベルド・アームレスト」です。
「Taylor公式HP」より引用
ベベルド・アームレストはテイラーのビルダーズ・エディションに搭載されている特別仕様。
ラディアス・アームレストよりも斜めにカットした面積が広く演奏性が更に向上しています。
高い演奏性を求める人にはビルダーズ・エディションをおすすめします。
これぞTaylorの真骨頂!?Builder’s Editionについて分かりやすく解説してみた
800シリーズのラインナップ
2022年8月現在、800シリーズには6つのモデルがラインナップされています。
- GT 811e
- 812ce
- 812ce 12Fret
- 814ce
- 818e
- Builder’s Edition 816ce
主な違いはボディ・シェイプ、いわゆるボディの形状です。
テイラーには6つのオリジナル・シェイプがあり、800シリーズでランナップされているのは「GT」「GC」「GA」「GS」「GO」の5シェイプ。
以下で各シェイプの特徴を簡単に紹介します。
グランド・シアター(GT)
対象モデル:GT 811e
グランド・シアター(Grand Theater)、通称GTはテイラーのフルボディでは一番小さいサイズのシェイプです。
形状そのものはグランド・オーケストラ(GO)を、そのまま小さくしたものですが、その鳴りはミニギターよりも本格的。
リビングに置いておくギターとしても丁度いいサイズ感です。
グランド・コンサート(GC)
対象モデル:812ce / 812ce 12Fret
グランド・コンサート(Grand Concert)、通称GCはマーチンの00(ダブルオー)に近いサイズ感で、女性や小柄な男性に人気の形状です。
ボディの厚みも浅いので、より身体に引き寄せて弾くことができ、特にフィンガー・ピッキングする人に選ばれる傾向があります。
12フレットジョイントについて
812ce 12Fretは、12フレットジョイントのモデルです。
通常のアコギはネックとボディの境目が14フレット目にありますが、12フレットジョイントは名前の通り、12フレット目にあります。
その分、ネックがショートしているので、体格の小さな人にはより弾きやすいモデルとなっています。
グランド・オーディトリアム(GA)
対象モデル:814ce
グランド・オーディトリアム(Grand Auditorium)、通称GAはテイラーで一番人気のシェイプ。
1994年に発表されたテイラー初のオリジナル・シェイプでもあります。
特徴は、大きすぎず小さすぎずフラットピックでのストロークから、フィンガー・ピッキングまで幅広いプレイスタイルに対応した万能型。
テイラーを初めて買う人は、とりあえずこのシェイプを買っておけば間違いないです。
Taylorの814ceをレビュー!これが真のフラッグシップモデル
グランド・オーケストラ(GO)
対象モデル:818e
グランド・オーケストラ(Grand Orchestra)、通称GOはテイラーでは一番大きなシェイプ。
創業した1974年から製造していたジャンボ(Jambo)の再設計版です。
抱えてみると、そのサイズ感に圧倒されますが、大きい分、ストロークした時のパンチ力や鳴りはテイラー随一です。
グランド・シンフォニー(GS)
対象モデル:Builder’s Edition 816ce
グランド・シンフォニー(Grand Symphony)、通称GSはGAよりもお尻が大きく、音量を稼ぎたい人に人気のシェイプです。
最大の特徴は、カッタウェイ部に空いている穴。
これは「サウンドポート」と言って、2020年のリニューアル時に誕生した、もうひとつのサウンドホールです。
サウンドホールが2つあるギターは昔から存在していましたが、そのほとんどはボディの側面についていました。
テイラーでは、カッタウェイ部に設けることで、スピーカーのステレオのような広がりあるサウンドを実現。
これにより、フィンガー・ピッキングなどの繊細なタッチでも、十分にオーディエンスに届くサウンドを実現しました。
Builder’s Editionについて
GSのBuilder’s Edition 816ceは、通常のモデルよりも弾き心地の良さを追求した機能を盛り込んだ“特別仕様”のモデルです。
こちらの記事では、ビルダーズ・エディションについて深堀りしています。
価格について
それに伴い、下の価格表も書き換えましたので以前読まれた方は注意してください。
800シリーズは、テイラーの定番3桁シリーズのフラッグシップというだけあって、実売でも70万円を超える高級ギターです。
メーカー希望小売価格 | 実売参考価格 | |
GT 811e | ¥781,000 | ¥624,800 |
812ce | ¥880,000 | ¥704,000 |
812ce 12Fret | ¥880,000 | ¥704,000 |
814ce | ¥880,000 | ¥704,000 |
818e | ¥880,000 | ¥704,000 |
BE 816ce | ¥913,000 | ¥730,400 |
テイラーは販売価格が安定しており、全国的に基本一律の価格設定となっていますが、小さな打痕や引っかき傷のある在庫だと新品特価で売り出される時があります。
また、中古の販売相場は、個体の状態によりますが30〜35万円です。
中古の場合は、ブレーシングがV-Classか確認してから購入してください。
V-ClassとXの見分け方
V-ClassブレーシングとXブレーシングは、ナットの色で見分けることができます。
V-Classは「黒」、Xは「白」です。
まとめ
以上のことから800シリーズの特徴をおさらいすると・・・
- Aグレードのローズウッドによる豊かなサウンド
- 伸びのあるサスティーン
- 極薄フィニッシュで突き抜けた鳴りを実現
- 抱え心地を重視したアームレスト
800シリーズはテイラーが創業した1974年から製造を続ける“象徴”のような存在です。
それだけでなく過去に幾度となくリニューアルを繰り返し、サウンドや弾き心地がブラッシュアップされています。
そのため年代によって、まったく違うモデルのようとも言われます。
中古(オールド・テイラー)に抵抗がない人は、年代ごとのモデルを弾き比べてみるのも面白いと思います。