テイラー(Taylor)ギターのフラッグシップと位置づけられている800シリーズ。
その中でも、特にフィンガー・ピッキング向けと言われているのが「812ce」です。
Image : Taylor
基本的なスペックは他のモデルと同じですが・・・
プレイアビリティを追求したアームレストや、鳴りを重視した極薄塗装、ハイグレードな材を使用するなどフラッグシップとしてテイラーの技術を詰め込んだモデルです。
この記事では、そんな812ceの基本スペックから、テイラーならではのテクノロジーを駆使した、弾きやすさやサウンドづくりについて深堀りしていきます。
812ceの基本スペック
下の図は、テイラーが展開するシリーズをグレードごとに分類したピラミッドです。
812ceの800シリーズは「定番」に位置し、その中でもフラッグシップという立ち位置です。
812ce |
ボディ・シェイプ | グランド・コンサート |
トップ材 | シトカ・スプルース |
サイド&バック材 | インディアン・ローズウッド |
ネック材 | トロピカル・マホガニー |
フレットボード材 | エボニー |
ブレーシング | V-Class |
ピックアップ | ES2 |
上記の基本スペックから読み取れる812ceの特徴は以下のとおりです。
小ぶりなボディ・シェイプを採用
ボディ・シェイプとは、いわゆるボディの形状のこと。
テイラーには6つのボディ・シェイプがあり、812ceはグランド・コンサート、通称GCという形状です。
GCはテイラーのボディ・シェイプでは2番目に小さく、ボディの厚みも薄く作られています。
その分、身体に引き寄せて弾くことができるので、小柄な女性や男性に選ばれる形状です。
演奏スタイルでは、特にフィンガー・ピッキングをするひとに人気があります。
アコギの定番「スプルース×ローズウッド」
トップに使われているのは、シトカ・スプルース(Sitka Spuruce)という材。
「taylorguitars.com」より引用
アコギの定番材で、テイラーでもほとんどのモデルで使用されています。
サイド&バックもアコギの定番、インディアン・ローズウッド(Indian Rosewood)という材。
「taylorguitars.com」より引用
インディアン・ローズウッドは、インド東部が原産のトーンウッド。
切ったばかりの材はバラの様な香りがすることから、その名が付けられました。
そのサウンドは、低音域と高音域が前面に出て、中音域はやや控えめ。
そのため弾き語りなどの「歌モノに最適」と言われる材です。
テイラー独自のV-Classブレーシング
ブレーシングとは、ギターのボディ内部に張られた棒状の材のこと。
「taylorguitars.jp」より引用
テイラーのブレーシングは、メインの骨格がV(ヴイ)状に張られた「V-Classブレーシング」が採用されています。
V-Classはテイラーが2018年に開発したオリジナルのブレーシングで、一般的なブレーシングの形状とは異なります。
一般的なブレーシングは、メインの骨格がX(エックス)状に張られた「Xブレーシング」です。
「NEW ATLAS」より引用
Xブレーシングは、マーチンが100年以上前に開発し、現在は多くのメーカーが採用しています。
XブレーシングとV-Classブレーシングを並べてみると、その構造の違いは一目瞭然。
V-ClassブレーシングはXブレーシングと比べて、音の分離やサスティーンが長いのが特徴。
さらにV-Classブレーシングは、コンパクトなボディでも音量が稼げることも特筆すべき点です。
弾きやすいナット幅
ナット幅とは、ギターのヘッドと指板の間にあるパーツを「ナット」と呼び、その幅のことを指します。
テイラーではシリーズによって2種類のナット幅があり・・・
42.9mm | : |
ナローネック |
44.5mm | : |
レギュラーネック |
812ceはナット幅44.5mmのレギュラーネックを採用しています。
レギュラーネックとナローネックのナット幅の差は、わずか1.6mmですが、握った感覚は全く違います。
ナローネックは下位シリーズ(200番台以下)で採用されており、初心者が握りやすくコードチェンジしやすいというメリットがあります。
レギュラーネックは300番台以降の上位シリーズで採用されている定番ネック。
特にフィンガー・ピッキングをする人は、頻繁に押弦するので広めの指板を好みます。
そもそもテイラーのネックは他メーカーと比べて薄めに作られているので、44.5mmでも押弦しやすいという特徴があります。
高品質なピックアップを搭載
テイラーの定番3桁シリーズには、すべてES2(Expression System 2)という独自のピックアップが搭載されています。
「HEARTBREAKER GUITARS」より引用
ピックアップとは、アコギ(エレアコ)の音を外部へ出力するためのもので、アンプに接続することで大音量が必要なステージなどで活躍します。
このピックアップには大きく2つの方式があり・・・
① ピエゾ方式 | : |
ギターの振動を拾い、電気信号に変換する方式 |
② マグネット方式 | : |
6本の磁石で音の振動を感知する方式 |
テイラーのES2は、①のピエゾ方式を採用していますが、一般的なそれとは一線を画しています。
一般的にピエゾ方式は、ピエゾ素子(センサー)をブリッジサドルの下に配置していますが、テイラーではブリッジサドルの後方に配置。
これにより、エレアコにありがちな“ピエゾ臭”と言われる不自然な機械音ではなく、ギター本来の箱鳴りに限りなく近いサウンドを再現してくれます。
812ceの特徴をレビュー
ここからは、僕が実際に試奏してみての評価を述べていきます。
「taylorguitars.com」より引用
まず、結論としては・・・
小さくても“生鳴り”は十分。PUサウンドもいけるので、1本もっておけば何でもこなせる優等生。
「Aグレード」の材でルックスも◎
812ceを手にとって、まず惹かれたのがサイド&バックのローズウッドの美しさです。
同じローズウッドの412ce Rosewoodと比較すると・・・
812ceの方が木目がハッキリしています。
実はテイラーでは、ローズウッドをシリーズごとにグレード分けしており・・・
400 Series | : |
なし |
800 Series | : |
A(シングルエー) |
900 Series | : | AA(ダブルエー) |
812ceのグレードは「A」です。
ちなみに・・・
見た目が美しい = 鳴りが良い
というわけではないので、見た目を重視しない人にはあまり意味はありませんが、木目フェチの人にはたまらないルックスです。
4.5milの極薄フィニッシュで抜群の鳴り
812ceの最大の特徴は、コンパクトなボディなのに“よく鳴る”こと。
これを実現している要因のひとつが、ボディのフィニッシュです。
フィニッシュとは、ギターのボディを製造する過程で塗料を吹き付ける工程のこと。
「TaylorBlog」より引用
フィニッシュもシリーズによって塗膜の厚さが異なり・・・
400 Series | : |
6.0mil |
800 Series | : |
4.5mil |
900 Series | : | 3.5mil |
812ceの塗膜の厚さは4.5mil(ミル)。
メートル法に直すと、0.1143mmです。
A4用紙1枚分の極薄塗装なので、材がより振動しやすくなっています。
推奨弦はエリクサー
812ceの工場出荷時に張られている弦はエリクサー(Elixir)の「フォスファー・ブロンズ・ナノウェブ・ライト(Phosphor Bronze NANOWEB Light)」です。
数ある弦の中でテイラーがエリクサーを推奨する理由は「長持ちするから」
一般的なメーカーの弦は1ヶ月ほどで錆び始めますが、エリクサーは、その2〜3倍は持つと言われています。
その理由は、弦を極薄の膜でコーティングしているから。
「elixirstrings.jp」より引用
このコーティングが湿気や汗など、皮膚に付着した汚れから弦を守ることで、サウンドの劣化を防いでいます。
最近は他メーカーでもコーティング弦が発売されていますが、実は弦をまるごとコーティングしているのはエリクサーだけです。
まるごとコーティングはエリクサーの特許技術なので、他メーカーは真似できないというわけです。
他メーカーは、巻弦の隙間はコーティングしていないので、その隙間から劣化が始まると言われています。
僕もいろんなメーカーの弦をテイラーに張って試してきましたが、今のところエリクサーで落ち着いています。
【Taylor】工場出荷時に張っている弦まとめ【Elixir / D’Addario】
価格について
812ceのメーカー希望小売価格、実勢売価は以下の通りです。
メーカー希望小売価格 | 実勢売価 | |
412ce RW | ¥880,000 | ¥704,000 |
テイラーは販売価格が比較的安定しており、全国的に一律の価格設定となっています。
ただ、まれに特価で売り出されることがあるので、急ぎでない人はときどき価格をチェックすることをおすすめします。
中古も狙い目
812ceの中古相場は、個体の状態にもよりますが約30〜40万円です。
中古の場合、2018年以前のモデルはV-ClassではなくXブレーシングになっていますので注意が必要です。
ちなみに、V-ClassとXは、ナットの色で見分けることが可能。
V-Classは「黒」、Xは「白」です。
まとめ
以上のことから、812ceの特徴をおさらいすると・・・
- 小ぶりなボディ・シェイプを採用
- アコギの定番「スプルース×ローズウッド」
- テイラー独自のV-Classブレーシング
- 弾きやすいナット幅
- 高品質なピックアップを搭載
- 「Aグレード」の材でルックスも◎
- 4.5milの極薄フィニッシュで抜群の鳴り
コンパクトなサイズが魅力の812ceですが、弾き語りなどのストローク系でもよく使われているモデルです。
同じく800シリーズの814ceもフラッグシップとして人気なので、2つを弾き比べてみるのも面白いと思います。
この記事がギター選びの参考になれば幸いです。