Taylorの612ceをレビュー!フィンガーピッカーに評判の“裏”フラッグシップモデル

テイラー(Taylor)ギターは100/200/〜800/900と100番台刻みでシリーズ分けされていて、基本的には数字が上がるほどグレードもアップします。

しかし、近年はラインナップの見直しが頻繁にされており、今まで通りの法則が通用しにくくなっています。

特に600番台はテイラーのフラッグシップの800番台と同等のグレードと言われており、マニアに人気のシリーズ。

その中でも特にコアなファンを持つのが、今回紹介する「612ce」です。

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Image : Taylor

フィンガー・ピッキング向けのボディに、プレイヤーの意図がサウンドに反映しやすいメイプルという材を使った、ちょっとクセのあるモデルですが・・・

スペック・価格の両面から見てもテイラーのフラッグシップと同等の存在であることが分かります。

この記事では、そんな612ceの基本スペックからファンに支持される理由を徹底解剖していきます。

 612ceの基本スペック

下の図は、テイラーが展開するシリーズをグレードごとに分類したピラミッドです。

理由は後述しますが、612ceの600シリーズは「定番」に位置し、その中でも“裏番長”的な存在です。

612ce

ボディ・シェイプ  グランド・コンサート
トップ材  トレファイド・シトカ・スプルース
サイド&バック材  メイプル
ネック材  メイプル
フレットボード材  エボニー
ブレーシング  V-Class
ピックアップ  ES2

上記の基本スペックから読み取れる612ceの特徴は以下のとおりです。

小ぶりなボディ・シェイプ

ボディ・シェイプとは、いわゆるボディの形状のこと。

テイラーには6つのボディ・シェイプがあり、612ceはグランド・コンサート(Grand Concert)、通称GCという形状です。

GCはテイラーのボディ・シェイプでは2番目に小さく、ボディの厚みも薄く作られています。

その分、身体に引き寄せて弾くことができるので、小柄な女性や男性に選ばれる傾向があります。

演奏スタイルでは、特にフィンガー・ピッキングをする人に人気があります。

長年弾き込まれたような枯れたサウンド

ボディのトップに使われているのは、シトカ・スプルース(Sitka Spruce)という材。

taylorguitars.com」より引用

アコギの定番材で、テイラーでもほとんどのモデルで使用されています。

612ceでは、シトカ・スプルースにトレファイドという特殊な焙煎技術を施し、長年弾き込まれたかのようなビンテージ・トーンに仕上げています。

サイド&バックは、メイプル(Maple)という材です。

taylorguitars.com」より引用

メイプルは日本でも馴染みの楓(かえで)の仲間で、テイラーではアメリカ北部からカナダにかけて自生する木を使用しています。

その特徴は、低音域から高音域までフラットなトーン。

プレイヤーの意思がそのまま音に反映されるので、明るく弾けば明るい音に、暗く弾けば暗い音になります。

そのためフィンガー・ピッキングなどの繊細な表現に向いた材と言えます。

テイラー独自のV-Classブレーシング

ブレーシングとは、ギターのボディ内部に張られた棒状の材のこと。

taylorguitars.jp」より引用

テイラーのブレーシングはメインの骨組みがV(ヴイ)状に張られた「V-Classブレーシング」が採用されています。

V-Classはテイラーが2018年に開発したオリジナルのブレーシングで、一般的なブレーシングとは形状が異なります。

一般的なブレーシングは、メインの骨組みがX(エックス)状に張られた「Xブレーシング」です。

NEW ATLAS」より引用

Xブレーシングは、マーチン(Martin)社が100年以上前に開発した、現在は多くのギターメーカーが採用しています。

XブレーシングとV-Classブレーシングを並べてみると、その構造の違いがよく分かります。

V-ClassブレーシングはXブレーシングと比べて、音の分離やサスティーンが強化されています。

サスティーン
音を鳴らして(弦を弾いて)から、聴こえなくなるまでの長さのこと。音の持続性を表す言葉。

さらにV-Classブレーシングは、コンパクトなボディでも音量を稼げることも特筆すべき点です。

弾きやすいナット幅

ナット幅とは、ギターのヘッドと指板の間にあるパーツを「ナット」と呼び、その幅のことを指します。

テイラーではシリーズによって2種類のナット幅があり・・・

42.9mm :

ナローネック

44.5mm :

レギュラーネック

612ceはナット幅44.5mmのレギュラーネックを採用しています。

taylorguitars.com」より引用

レギュラーネックとナローネックのナット幅の差は、わずか1.6mmですが、握った感覚はまったく違います。

ナローネックは下位シリーズ(200番台以下)で採用されており、初心者が握りやすくコードチェンジしやすいというメリットがあります。

一方のレギュラーネックは、300番台以降の上位シリーズで採用されている定番ネック。

特にフィンガー・ピッキングをする人は、頻繁に押弦するので広めの指板を好みます。

そもそもテイラーのネックは他メーカーと比べて薄めに作られているので、44.5mmでも押弦しやすいという特徴があります。

高品質なピックアップを搭載

ピックアップとは、アコギ(エレアコ)の音を外部へ出力するためのもので、アンプに接続することで大音量が必要なステージなどで活躍します。

612ceに搭載されているのはES2(Expression System 2)というテイラー独自のピックアップ。

HEATBREAKER GUITARS」より引用

一般的にピックアップには大きく2つの方式があり・・・

① ピエゾ方式 :

ギターの振動を拾い、電気信号に変換する方式

② マグネット方式 :

6本の磁石で各弦の振動を感知する方式

テイラーのES2は、①のピエゾ方式を採用していますが、一般的なそれとは一線を画しています。

一般的なピエゾ方式は、ピエゾ素子(センサー)をブリッジサドルの下に配置していますが、ES2はブリッジサドルの後方に配置。

これによりエレアコにありがちな“ピエゾ臭”と言われる不自然な機械音ではなく、ギター本来の箱鳴りに限りなく近いサウンドを再現してくれます。

 612ceをレビュー

ここからは、僕が実際に試奏してみての評価を述べていきます。

taylorguitars.com」より引用

まず、結論としては・・・

2本目、3本目のテイラーを選ぶならこれ。

正直、はじめてのギターとしてメイプルは選ばれにくい材です。

しかし、テイラー好きならメイプルのサウンドを聴けば、その良さは分かるはず。

音は試奏してみないと分からないので、この記事では構造的な特徴をレビューしていきます。

伸びのあるサスティーン

一般的に、メイプルはサスティーンが短いことがデメリットと言われています。

テイラーではV-Classブレーシングでサスティーンを強化していますが・・・

612ceでは他のモデルにはない独自の工法でさらなる強化が図られています。

下の画像は、メイプル(左)とローズウッド(右)の各モデルのバック材に張られたブレーシングです。

ローズウッドのブレーシングがサイドにまで達しているのに対して、メイプルは届いていません。

これは材の鳴りを重視して、あえてブレーシングを短くしているのです。

こうすることで、さらにサスティーンが向上し、伸びのあるサウンドに仕上げています。

極薄フィニッシュで抜群の鳴り

フィニッシュとは、ボディの製造過程で塗料を吹き付ける工程のこと。

「TaylorBlog」より引用

フィニッシュを行う理由はボディ表面の保護サウンドの安定化です。

使われる塗料の種類はメーカーによって様々ですが、612ceはポリエステル塗料を使ったグロス仕上げとなっています。

ポリエステル塗料は、液垂れしにくく速乾性の高い塗料。

塗布する際に気泡が出にくく、ヴィンテージギターによくあるウェザーチェックの発生が少ないというメリットがあります。

ウェザーチェック
塗膜のヒビ割れのこと。ウェザークラックとも呼ばれる。

テイラーではモデルによって塗膜の厚みが異なり「3.5mil」「4.5mil」「6.0mil」の3パターンに分けれますが・・・

612ceは最も薄い3.5mil(ミル)を採用しています。

標準的な6.0milは6.0milは、A4用紙2枚分の厚さなので、3.5milはほぼ1枚分という薄さ。

塗膜が薄くなるほど材は振動しやすくなるので、612ceがいかに鳴りを重視して作られているかが分かります。

 推奨弦はエリクサー

612ceの工場出荷時に張られている弦はエリクサー(Elixir)の「フォスファー・ブロンズ・ナノウェブ・ライト(Phosphor Bronze NANOWEB Light)」です。

数ある弦の中でテイラーがエリクサーを推奨する理由は「長持ちするから」

一般的なメーカーの弦は1ヶ月ほどで錆び始めますが、エリクサーは、その2〜3倍は持つと言われています。

その理由は、弦を極薄の膜でコーティングしているから。

elixirstrings.jp」より引用

このコーティングが湿気や汗など、皮膚に付着した汚れから弦を守ることで、サウンドの劣化を防いでいます。

最近は他メーカーでもコーティング弦が発売されていますが、実は弦をまるごとコーティングしているのはエリクサーだけです。

まるごとコーティングはエリクサーの特許技術なので、他メーカーは真似できないというわけです。

他メーカーは、巻弦の隙間はコーティングしていないので、その隙間から劣化が始まると言われています。

僕もいろんなメーカーの弦をテイラーに張って試してきましたが、今のところエリクサーで落ち着いています。

【Taylor】工場出荷時に張っている弦まとめ【Elixir / D’Addario】

 価格について

612ceのメーカー希望小売価格、実勢売価は以下のとおりです。

※すべて税込み
  メーカー希望小売価格 実勢売価
612ce ¥825,000 ¥660,000

テイラーは販売価格が比較的安定しており、全国的に一律の価格設定となっています。

ただ、まれに特価で売り出されることがあるので、急ぎでない人はときどき価格をチェックすることをおすすめします。

 中古も狙い目

612ceの中古相場は、個体の状態にもよりますが約25〜35万円です。

中古の場合、2018年以前のモデルはV-ClassブレーシングではなくXブレーシングとなっていますので注意が必要です。

ちなみにV-ClassとXは、ナットの色で見分けることが可能。

V-Classは「黒」Xは「白」です。

 まとめ

以上のことから612ceの特徴をおさらいすると・・・

  •  小ぶりなボディ・シェイプ
  •  長年弾き込まれたような枯れたサウンド
  •  テイラー独自のV-Classブレーシング
  •  弾きやすいナット幅
  •  高品質なピックアップを搭載
  •  伸びのあるサスティーン
  •  極薄フィニッシュで抜群の鳴り

メイプルのギターはローズウッドやマホガニーのモデルと比べると、あまりメジャーではないですが、その独自のサウンドには一定のファンがついています。

テイラーもメイプルのモデルには力を入れていて、スペックはもちろんのこと、装飾も800シリーズと同じくらい豪華です。

612ceを「裏番長的な存在」と言った理由もここにあります。

この記事がギター選びの参考になれば幸いです。

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