テイラー(Taylor)のギターは、基本的に100・200・300・・・900と、100番台ごとにシリーズ分けされています。
僕はこのシリーズを「定番3桁シリーズ」と呼んでいます。
その中でもベストセラーが100・200シリーズ。
どちらも新品で10万円台から手に入るエントリーモデルで、初めてアコギ(エレアコ)を買う人や、最初にテイラーを選ぶ人が手始めに買うシリーズとなっています。
300以降のシリーズはグッと価格も上がるため、手頃な100・200シリーズが売れるのは分かるのですが、この価格差がどこから生まれているのかはあまり知られていない気がします。
この記事では、300以降のシリーズと比較しながら100・200シリーズの魅力を紐解いていこうと思います。
100・200シリーズの基本スペック
まずは、100・200シリーズの代表的なモデルのスペックから抑えていきたいと思います。
114e-Walnut |
ボディ・シェイプ | グランド・オーディトリアム |
トップ材 | シトカ・スプルース |
サイド&バック材 | レイヤード・ウォルナット |
ネック材 | ハードロック・メイプル |
フレットボード材 | エボニー |
ブレーシング | X |
ピックアップ | ES2 |
こちらは定番3桁シリーズでは最安値となる114e-Walnutです。
100シリーズはサイド&バックにウォルナット(Walnut)という材を使用しています。
ウォルナットは世界三大銘木のひとつで、クルミ科クルミ属の落葉広葉樹。
暖かみのある木目から、家具の材として広く知られています。
114e-Walnutのボディ・シェイプは、テイラーでは定番のグランド・オーディトリアム(Grand Aditorium)で、カッタウェイのないスタンダードな形状です。
もともと、114ceというカッタウェイの付いたモデルも存在していましたが、2020年に廃盤になっています。(※2021年に数量限定で復刻)
Tayorの114ceはなぜ人気?214ceとの違いは?スペックから読み解くとその秘密が分かる!
214ce-Rosewood |
ボディ・シェイプ | グランド・オーディトリアム |
トップ材 | シトカ・スプルース |
サイド&バック材 | レイヤード・ローズウッド |
ネック材 | トロピカル・マホガニー |
フレットボード材 | エボニー |
ブレーシング | X |
ピックアップ | ES2 |
こちらはカッタウェイの付いた214ce-Rosewood。
114e-Walnutとの大きな違いは、サイド&バックに使われている材がインディアン・ローズウッド(Indian Rosewood)です。
インディアン・ローズウッドは、その名の通り、インド東部が原産の樹木。
切ったばかりの材は、バラの様な香りがすることから名付けられました。
マーチン(Martin)のD-28などの定番ギターに使われていて、他メーカーではフラッグシップモデルはほとんどがこの材を使っているほど、アコギの王道と言える材です。
その音は、暖かみや深みを感じられる太い低音域に、煌めく高音域、伸びのあるサスティーンなど豊かなサウンドが特徴。
一方で、中音域はやや抑え気味なので歌モノに最適と言われています。
200シリーズには、その他、ハワイ産のコア(Koa)を使用したモデルも存在します。
300以降のシリーズとの違い
それでは、ここから300以降のシリーズとの違いを解説していきます。
レイヤード・ウッド
レイヤード・ウッドとは、合板のこと。
「ごうばん」ではなく「ごうはん」と読みます。
合板とは、ベニア板のように薄くスライスした木材同士を重ね、圧着させた板のことを言います。
300以降のシリーズはオール単板、木材をそのまま切り出した板で作られています。
下の図の、左が単板、右が合板のイメージです。
「wood&steel」より抜粋
合板は主材と主材の間に別の材(中間素材)を挟み込んで作られています。
テイラーでは「合板」という名称は用いず、一貫して「レイヤード」と呼んでいます。
その理由は中間素材にポプラを採用しているから。
114e-Walnutなら・・・
ウォルナット + ポプラ + ウォルナット
214ce-Rosewoodなら・・・
ローズウッド + ポプラ + ローズウッド
という具合。
一般的に、合板のアコギ(エレアコ)は生産性の安定化やコスト面から、木材ではない合成素材を採用することが多くなりました。
テイラーでは、そうした合成素材ではなく、れっきとした木材(ポプラ)を使用していることをアピールするため「レイヤード」という言葉を使用しています。
一方、単板は「ソリッド」(Solid)と呼ばれ、テイラーに限らず、ほぼ全てのメーカーでの呼称となっています。
テイラーでは、「レイヤード」(Layered)の表記が無い場合は全てソリッドです。
つまり、114e-Walnutも214ce-Rosewoodもトップ材は単板というわけです。
では、単板と合板で何が違ってくるのか?
大きく分けると、以下の2点になります。
- サウンド
- 剛性
サウンド
1つ目の違いはサウンドです。
単板は文字通り、単一の材なのでアコギのボディが全体的に振動しやすく、箱鳴りも抜群です。
さらに、材による音の特性もハッキリ分かります。
合板は、主材と中間素材の繊維の方向を互い違いに組んでいるので、単板に比べて音の振動が伝わりにくく、箱鳴りが弱いと言われています。
剛性
サウンド面で見ると、単板の方がいいと思われますが、剛性に関しては合板に優位性があります。
単板は材の繊維が一方向なので、“曲げ”や“ねじれ”といった外部からかかる力に弱い性質があります。
一方の合板は、先述したように、材の繊維を互い違いに組んでいることから、外部からの力に耐えやすい性質となっています。
はじめてアコギを買う人には、剛性のある合板モデルの方が扱いやすいと言えます。
ブレーシング
ブレーシング(Bracing)とは「力木」(ちからぎ)と呼ばれる、ボディの強度を上げるためにギターの内側に張られた棒状の材のこと。
100・200シリーズには、メインの骨組みが大きくX(エックス)状に張られた「Xブレーシング」が採用されています。
「NEW ATALAS」より引用
これは、マーチン(Martin)が考案したものがベースになっており、テイラーに限らず、ほとんどのギターメーカーがこのX型をアコギのブレーシングとして採用しています。
その特徴は、ボディの強度を高めながらも、サスティーンを継続させるのに必要十分な形状という点です。
一方、300以降のシリーズには「V-Class」(ヴイ-クラス)というブレーシングが採用されています。
「Taylor公式HP」より引用
V-Classは2018年から採用された、テイラーのオリジナル・ブレーシング。
メインの骨組みがV(ヴイ)状に張られ、Xブレーシングと比べてギターのボリュームとサスティーンを劇的に改善するために開発されました。
「X」と「V」で、どちらが良い・悪いということはないのですが、オーソドックスなXブレーシングでも十分、テイラーらしい音を奏でることは可能です。
V-Classに関しては、登場以来、賛否両論ありますが、よりテイラーらしい音を求めるのであれば最初から選択肢に入れるのも大いにありだと思います。
ナット幅
ナット幅とは、下の図にあるように、ギターのヘッドと指板の間にあるパーツを「ナット」と呼び、その幅のことを指します。
100・200シリーズのナット幅42.9mmのナローネック(Narrow Neck)が採用されています。
対して、300以降のナット幅は44.5mm。
その差はわずか1.6mmですが、握った感覚はかなり違います。
ネック幅が細いことで、握りやすく、コードチェンジがしやすいというメリットがあり、初心者や手のサイズが小さい人にオススメです。
ピックアップ
テイラーの定番3桁シリーズには、全てES2(Expression System 2)という、独自のピックアップ・システムが搭載されています。
ピックアップとは、アコギ(エレアコ)の音を外部へ出力するためのもので、アンプに接続することで大音量が必要な場面(ステージ上など)で活躍します。
このピックアップには大きく2つの方式があり、ひとつは6本の磁石で音の振動を感知する「マグネット方式」、もうひとつはピエゾ素子でギターの振動を拾い、電気信号に変換する「ピエゾ方式」です。
テイラーのES2はピエゾ方式を採用していますが、一般的なそれをとは一線を画すタイプです。
一般的にピエゾ方式は、ピエゾ素子をブリッジサドルの真下に配置していますが、テイラーでは、ブリッジサドルの後方にセンサーを設置。
これにより、エレアコにありがちな“ピエゾ臭”と言われる、不自然な機械音ではなく、ギター本来の箱鳴りに限りなく近いサウンドを再現することに成功しました。
実は、このピックアップを繋げば、先述した単板か合板か、と言った違いはあまり関係なくなります。
つまり100・200シリーズは高品質なピックアップを搭載したお手頃エレアコということが言えるのです。
ちなみに、テイラーのピックアップ付きモデルには、型番に小文字の「e」が付きます。
「e」が付いていないモデルは、ノン・ピックアップとなりますので注意が必要です。
価格差について
それに伴い、下の価格表も書き換えましたので以前読まれた方は注意してください。
100・200シリーズは、共に実売で10万円台から手に入る低価格が魅力のひとつです。
100シリーズ | メーカー希望小売価格 | 実売参考価格 |
110e-Walnut | ¥198,000 | ¥158,400 |
114e-Walnut | ¥198,000 | ¥158,400 |
150e-Walnut | ¥214,500 | ¥171,600 |
200シリーズ | メーカー希望小売価格 | 実売参考価格 |
210ce-RW | ¥236,500 | ¥189,200 |
214ce-RW | ¥236,500 | ¥189,200 |
214ce-Koa | ¥264,000 | ¥211,200 |
214ce-Koa SB | ¥286,000 | ¥228,800 |
214ce-Nylon RW | ¥264,000 | ¥211,200 |
254ce-RW | ¥264,000 | ¥211,200 |
参考までに、ひとつ上の300シリーズだと314ceが約38万円です。
この価格差については、これまでに述べた仕様の違いから生まれています。
尚、テイラーは販売価格が安定しており全国的に一律の価格設定ですが、小さな打痕や引っかき傷のある在庫だと新品特価で売り出される時があります。
さらに中古だと10万円以下で手に入れることもできるので、毎日チェックしてみるのもおすすめです。
まとめ
繰り返しになりますが、ここまでを通じて100・200シリーズの人気の秘密は・・・
- 合板による高い剛性
- Xブレーシングによるトラディショナルかつテイラーらしいサウンド
- 低価格ながらも上位モデルと同じピックアップを搭載
以上の3点となります。
ただし、ギターにはサウンドだけでなく弾きやすさにも違いはあります。
これはスペックでは表せない部分なので、実際に楽器店に足を運んで試奏するのが一番です。
この記事が理想の一本を見つける手助けになれば幸いです。